フロンメタルSの性質

1. 物理的性質

フロンメタルSは、熱硬化性樹脂であるポリイミドとTFE(テフロン)との混成膜を金属表面に構成したものであり、 ポリイミドもTFE(テフロン)も共に合成樹脂の中では最高の耐熱性を有するので、当然フロンメタルSは高温軸受として利用されることに特徴があります。
従って高速回転による摩擦熱発生に対しても全く不安がありません。

第7表は主要エンジニアリング・プラスチックの諸性質を比較して示したものです。
軟化点、溶融点のないポリイミドは450℃に加熱しても何等変化がありません。

ポリイミド樹脂単体の熱変化温度は240℃以上、連続使用耐熱温度は260℃ですが、フロンメタルSは金属表面に薄膜にコーティングしてあるため、連続使用耐熱温度は350℃以上になっても大丈夫です。そして衝撃振動に強い軸受及びすべり面として実用的です。

ポリイミド樹脂が熱硬化性であり、その耐熱性のよいこと、高温強度の大きいことは、軸受すべり面のように絶えず摩擦熱によって加熱される場所の材質としては好適のものであり、同じエンジニアリング・プラスチックでも熱可塑性樹脂であるナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネートなどに比較して本質的に優っています。
ポリイミドは低温でも脆化することなく強力です。

膜の硬さ、強さなどは第3表に示してあります。

第7表 主要エンジニアリング・プラスチックの諸性質
性質 ASTM ポリイミド ナイロン
(ナイロン6)
ポリアセタール
(ジュラコン)
ポリカーボネート
(パンライト)
4フッ化エチレン
(テフロン)
(ポリフロン)
比重 D792 1.43 1.13 1.4 1.2 2.2
引張強さ kg/cm2 D638
D651
-160℃ 630~980
25℃ 490~735 490~980 619~703 580~738 41~316
250℃ 250~450 0 0 0 10~50
320℃ 150~320
伸び % D638 6~7 25~200 15~75 60~100 200~400
圧縮強さ kg/cm2 D695
25℃ >1680 506~914 1265 780 120
100℃ >1120
250℃ >840 0 0 0 20
衝撃強さ kg/cm2 D256 1.1 1.0~4.0 1 12~16 3.0
IZOD kg-cm/cm 4~6 5.45 6~12 65~90
硬度 D785 H85~95 R103~118 R118 R118 D50~65
鉛筆硬度 JISKA6894 6H 3H 4H 3H 2B
溶融点℃ なし 220 163 230 なし
無強度温度 >500 180 150 200 >300
耐熱温度(連続使用) >260 80~120 60~100 120 200
熱変形温度(18.6kg/cm2) D648 >240 67~75 100 137
熱伝導率(×10-4cal/cm2・sec・c) C177 3.72 5.85 5.5 4.6 6.0
熱膨張係数(×10-5/℃) D696 4~5 8.3~9.9 8.1~8.3 7 10
吸水率(24時間、3.18mm) D570 0.32 1.6~1.9 0.12~0.25 0.15 なし
絶縁破断電圧 KV/mm2 27 16 18 8 17
耐放射線性(γ線と中性子) 109Rad 104Rad

2. 耐薬品性

(a)媒性

コーティング被膜を溶解する溶剤はありません。 しかし、ポリイミドはアルカリの熱溶液には溶解します。
当社でコーティング不良品は濃アルカリ液中で煮沸して膜を取り除きます。
アルミニウム材は切削加工して膜を取り除きます。

(b)ポリイミドの耐酸耐アルカリ試験(デュポン)

第8表
試  薬 状  態 浸漬時間(日)
NaOH 5% 幾分硬化 28
NaOH 1% 僅かに硬化の傾向 28
濃硫酸 96% 溶解 1
濃硝酸 70% 脆化 1
濃塩酸 37% 曇り・軟化 7
硫 酸 5% 僅かに硬化 21
硝 酸 5% 僅かに変化(硬化せず) 21
塩 酸 5% 僅かに硬化 21

(c)フロンメタルSの被膜の試験

アルミ箔にコーティングして箔を取り除いた被膜のフィルム(0.20mm)を室内でビーカー内24時間浸漬後24時間空中放置を4回繰り返した結果は、 次のようにアルカリには弱いが酸には非常に強いことがわかります。 フィルムの黒色変化は添加剤の影響です。

NaOH 10% = 黒色変化、膨潤、軟化。
NaOH 1% = 僅かに変色、軟化せず。
NH3 10% = 黒色変化、軟化せず。
NHO3 10% = 僅かに変色。
N2SO4 10% =
HCL 10% = 変化なし。

また、フロンメタルS(黒色)は耐アルカリ性、耐酸性ともに優秀です。 濃アルカリ性水溶液の沸騰液中でも溶解しません。また、濃塩酸、濃硫酸、濃硝酸にも犯されません。

(d)濃酸、濃アルカリ水溶液中の使用

コーティング膜自身は酸、アルカリに犯されなくても、この膜には微小な孔、孔隙があるので、長時間の後には酸、アルカリが滲入透過して金属面に達し、金属面を犯し、その為に膜が浮いて剥がれる現象が起きます。
殊に、沸騰水蒸気の気泡、高温冷却を繰り返す場合の膜と金属の膨張伸縮の差による割れ目、しわの発生等は剥がれを助長します。

しかし、ステンレス台金にコーティングしたS(黒色)膜は、常温でのみ使用される稀酸、稀アルカリ水溶液中では問題ありません。

3. 電気絶縁性

ポリイミド樹脂は合成樹脂の中では最高の破壊電圧を有しています。
フィルムは20μ位で10KVの電圧に耐えますが、金属表面にコーティングした膜は、ボイド存在の為に50μ以上を必要とします。

フロンメタルSは全般に電気絶縁性は優秀で、50~100μコーティングして、2000V位までは実用されています。 さらに厚くすれば、破壊電圧は増加します。